前垣家(寿泉庭)  重森三玲の作庭:昭和30年・59歳
広島県東広島市西条上市町  非公開
  拝見した瞬間、誰もが感ずる感想は、その美しさであろう。三方から見られる閉ざされた空間に、楚々と立つ麗人を見る思いだ。何か懐かしく、郷愁がこみ上げてくる。植栽と大きな石は背後に控え、複雑な形の野筋、出島には清清しい苔が茂っている。前列は角張った石が組まれている。手前の空間には形の良い舟石が書院に向かっている。建物と大海の際はデフォルメされた洲浜が敷かれている。この感動の感情はどのようにして生まれるであろうか。先ずは、三つある庭園構成を記す。

本庭の構成
@野筋、出島が複雑に入り組んでいて景観に奥行きを与えている
・野筋が奥部あり書院からの景観に奥行きを与えている
・出島が左右から交差して、景観を豊かにしている。出島は極端に長細く、高低があり、洲浜様式で全体として霞形としている。
A特別の石を用いずに、当家のゆかりの石を組んでいる。材質に頼らない石組みの面白さが現れている。重森の初期の特徴である、清新さが感じられる。
・後ろ側にある大きな石は旧庭にあったもの
・前面にある角張った石は前垣家の山から持ってきた。重森はこの石の角張った部分で自己の表現をした。特に立て石と横石の組み合わせは彼の出世作である東福寺・方丈のそれを髣髴させる。
・阿波の青石は一石のみ
B前面にある空間は余白の美ともいうべきか。
  瀬戸内海を象徴する洲浜は大きく湾曲し、そのデザインの卓抜さに重森の原点を感ずる。重森のオリジナルである。従来の日本庭園には見られない手法である。なお、この鞍馬石の洲浜模様は最も初期の作品と思われる。この空間の要になるのが舟石である。この一石で庭園が動き出し、物語が始まる。

坪庭
白砂に三石のみの簡素な庭。閉ざされた空間に一草一木も無く白砂と鋭利な石のみ。見られ、目が合った瞬間、忘れさせない意思をもった庭。坪庭の傑作ではなかろうか。

前庭
  門と玄関の間にある庭。旧庭にあった石を組んだ庭。

▲母屋からの三段構成の全景  奥より野筋上の石組み、出島、立石手法の石組み

▲上記写真の拡大  手前は重森らしさの三尊様式石組み。奥は旧庭の石を傾けたり、稜線を鋭くしたりの苦心の石組み

▲正面奥の三尊様式の枯滝は旧庭の石を右に方くけて変化を持たせ、両端に鋭い立石を用い重森らしさの演出。左手前は稜線のはっきりした石で三尊石組を組んだ。

▲座敷から見た左側全景  変化の多い出島を左右から交差させている。

▲座敷廊下からの庭園右側

▲母屋から見た前景  手前より洲浜模様の敷石、大海を行く舟石、三段構成の石組

▲中央の蓬莱山から座敷に向かう舟

▲建物は凹形をしているが、その凹んだ部分の軒内には丹波産の石で洲浜が敷かれている

▲門内の庭は旧庭の石によるため重森らしさが薄い

▲坪庭 小さいながらその存在を主張する庭。気になる庭である
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